腹痛

腹痛

1.腹痛はなぜ起こるか

腹痛とは、腹部に痛みを訴える症状のことを言います。腹痛を主訴に医療機関を来院される方には、消化器系の悩みを抱えた方が多く見受けられます。ところが、お腹の中にはたくさんの臓器があり、それぞれが痛みの原因とるため、痛みの原因も多種多様です。
まず、腹痛には急性腹痛と慢性腹痛、反復性腹痛というものがあります。
急性腹痛とは、急激に発症した激しい腹痛で、緊急手術を必要とする可能性が高い腹痛を指します。
慢性腹痛とは、3か月以上腹痛が持続する場合のことを言い、一般的に小児に多く5歳以降にみられることがあります。
反復性腹痛とは、常に痛みがあることも、痛みが現れたり消えたりすることもある腹痛のことを言います。一般的には、5~16歳の約10~15%(特に8~12歳)に慢性腹痛または反復性腹痛がみられるとされており、男児と比べ女児にやや多い傾向にあります。成人の場合でも慢性腹痛を抱えている方はおり、成人の約2%、主に女性に慢性腹痛がみられます。

腹痛には、痛みの種類による分類もあります。大きくは、内臓痛・体性痛・関連痛の3つがあります。
内臓痛とは、消化管の収縮、伸展、痙攣、拡張などによって起こる痛みのことで、内臓神経である自律神経を介して感じる腹痛のことをいいます。内臓痛は痛みの部位が明確ではないことが特徴で、周期的にお腹全体が何となく痛いというものです。吐き気や悪心、冷汗といった症状をともなうことがあります。わかりやすいところでは、下痢や便秘でおこる痛みが内臓痛です。
体性痛とは内臓をとりまく腹膜や腸間膜、横隔膜などに分布している知覚神経が刺激されて起こる腹痛のことを言います。一般には、刺すような鋭い痛み(疝痛)が30分以上にわたって持続するという特徴があり、内臓痛よりも痛みの部位がはっきりとしています。例えば、虫垂炎(盲腸)などの痛みが体性痛です。どの部分が痛むかが明確で、さらに鋭い痛みが持続します。
関連痛とは、内臓痛を生じた部位と同一レベルの脊髄神経への刺激により、その神経が支配する部位に表在性の疼痛を感じるものです。「お腹の表面が痛む」と表現される方が多い痛みで す。

また、これらに加えて機能性疼痛というものもあります。これは、慢性腹痛や反復性腹痛に見られる疼痛で、6か月ほど経過しても具体的な身体の病気が見つからない場合や、食事や月経などの身体機能、薬物など因果関係が無くても起こる痛みのことを言います。

2.腹痛を起こす原因(病気)

腹痛を起こす原因にはどのような疾患が隠れているのか、その例を挙げてみます。

  • 心窩部痛(いわゆるみぞおちに痛みを感じる場合):食道炎、胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)、胆石症、胆嚢炎、膵炎、急性虫垂炎の初期、心筋梗塞、大動脈破裂、大動脈解離など
  • 右上腹部痛(右季肋部痛):胆石症、胆嚢炎、胆管炎、憩室炎、胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)、肝炎、肝周囲炎、胸膜炎など
  • 左上腹部痛(左季肋部痛):食道破裂、胃潰瘍、膵炎、虚血性腸炎、脾梗塞、脾破裂、胸膜炎など
  • 臍周囲痛:急性虫垂炎の初期、腸閉塞、膵炎、大動脈破裂、上腸間膜動脈閉塞症、尿膜管遺残症など
  • 右下腹部痛:急性虫垂炎、憩室炎、大腸炎、炎症性腸疾患、尿路結石、異所性妊娠、卵管炎、卵巣捻転、卵巣出血、骨盤腹膜炎、鼠蹊部ヘルニアなど
  • 左下腹部痛:急性虫垂炎、憩室炎、大腸炎、炎症性腸疾患、S状結腸軸捻転症、尿路結石、異所性妊娠、卵管炎、卵巣捻転、卵巣出血、骨盤腹膜炎、鼠蹊部ヘルニアなど
  • 臍下部痛(下腹部正中):急性虫垂炎、憩室炎、大腸炎、尿路結石、異所性妊娠、卵巣捻転、卵巣出血、骨盤腹膜炎など
  • 腹部全体の痛み:汎発性腹膜炎、腸閉塞、上腸間膜動脈閉塞症、大動脈瘤破裂、大動脈解離、糖尿病性毛とアシドーシス、急性ポルフィリン症、IgA血管炎、中毒(鉛、ヒ素)など

そのほかにも食中毒(ノロウィルス、アニサキス、カンピロバクター) 等の細菌感染による腹痛や、帯状疱疹やじんましん、擦過傷など 腹部の皮膚に由来する痛みなども考えられます。
腹痛の頻度として多いのは、上から急性虫垂炎、胆石症、腸閉塞です。また、頻度は決して多くはないものの、悪性腫瘍や卵巣出血などでも腹痛が出現します。

しかし、腹痛を起こす原因は病気によるものだけではありません。医学的には異常(疾患)が見られなくても、腹痛を起こす場合があります。例えば、「機能性ディスペプシア」と呼ばれる疾患では、内視鏡検査をしても異常が見つからないにもかかわらず心窩部に痛みが生じます。 また、「過敏性腸症候群」と呼ばれる疾患では、腸に何も異常がないのに、腹痛を伴った便秘や下痢が続きます。一般的に「緊張してお腹が痛くなる」など精神的なことが原因で一時的に腹痛がみられ、その原因が解消されると腹痛が治るという場合も、過敏性腸症候群にあたります。
他にも、病気でないことが確定している腹痛、例えば生理痛や妊娠中の腹痛、陣痛などもあります。

「腹痛」を起こす原因は実にさまざまですが、腹痛の約30~40%は原因不明といわれており、検査をしても腹痛の原因が特定できない ということもあります。

3.腹痛がある時はどうすれば良いか

腹痛の原因は多種多様ですので、患者さまご自身の判断では、その原因が特的できないことが多々あります。原因が分からなければ適切な対処は難しいため、腹痛に悩んでいる方は医療機関を受診して下さい。
また、医師が正しい判断をするためには、腹痛の正確な情報が必要です。腹痛の部位がどの部分なのか、どのような程度なのか、時間は続けてか、ときどきなのかなど「痛みのパターン」を医師に報告するだけでも、診察の重要なヒントになります。
もし、身近な人が急激な腹痛を訴えた場合には、まずベルトなどを緩め、本人の最も楽な体位に寝かせ、急いで医療機関を受診しましょう。その間、むやみにお腹を温めたり、冷やしたり、下剤を与えたり、飲食物を与えたりはしないでください。腹痛の原因によっては、逆効果となることがあります。
特に腹痛の原因が心筋梗塞、腹部大動脈瘤破裂、上腸間膜動脈閉塞症、異所性妊娠(子宮外妊娠)であった場合には緊急性が非常に高くなります。例えば

  • 激しい腹痛を訴える
  • 顔面が蒼白して、額に冷や汗をうかべる
  • 脈拍が弱く、あるいは速くなる
  • 意識障害を起こす

このような場合には、緊急性が非常に高くなります。
他にも、腹部は張ったように固くなったり、嘔吐を伴なったりするような症状(随伴症状)がある場合は重症の可能性がありますので早めに受診するようにしましょう。
また、腹痛はあるものの緊急性を要しない、ということがはっきりとわかるような腹痛の場合は、まず楽な体位をとりましょう。特に、内臓痛の場合は安楽な体位をとることで腹痛が緩和することもあります。体勢としては膝部を屈曲させ腹壁の緊張をとり、状態もやや前屈させた体位(シムス位)が安楽であるとされています。腹痛が激しい時には食事をとらず禁食としましょう。食事をとらずに様子を見て、腹痛が緩和したら消化のよい食品を選び、少量ずつ食べられるようになったら、徐々に普通食に戻していきましょう。