胃・十二指腸潰瘍

胃・十二指腸潰瘍

1. 胃・十二指腸潰瘍とはどのような病気か

腸管の内壁が傷つけられ、粘膜の下までえぐられた状態を「潰瘍」といいます。この潰瘍が胃粘膜にできた場合を胃潰瘍、十二指腸の粘膜に潰瘍ができた場合を十二指腸潰瘍と言い、二つの疾患を合わせて消化性潰瘍とも呼ばれます。

胃は、胃酸と呼ばれる強い酸と、ペプシンと呼ばれる消化酵素を分泌することで食べ物を消化する働きがあります。強い酸が分泌されていても胃が侵されないのは、胃粘膜の表面にある粘液が胃を守っているからです。しかし、さまざまな原因により胃酸の攻撃力と胃粘膜の防御力のバランスが崩れて、胃壁を守る機能が低下することで生じるのが胃潰瘍です。
胃潰瘍ができやすいのは、小弯部と呼ばれる胃の上側です。胃の一部を手術で切除された場合、胃の残存部を小腸につなぎなおした部分にできる「吻合部潰瘍」というものもあります。
胃潰瘍の症状は腹痛が最も多く、みぞおちあたりに強い痛みを感じます 。空腹時に痛みを感じることが多く、食事をとることで痛みが軽くなっていきます。ほかにも胸やけや嘔気が生じることもありますが、症状が全くなく健診などでたまたま発見されるという場合もあります。
胃潰瘍は幼児期から見られることのある病気ですが、特に中年期の方に多く見られます。消化性潰瘍の中でも胃潰瘍の患者数が多いといわれていますが、胃潰瘍の患者数は年々減少傾向であり、胃潰瘍の患者数がピークだった平成5年ごろの約4分の1にまで減っています。

十二指腸潰瘍は胃酸の影響を受ける十二指腸の始まりの部分、十二指腸球部にできやすい潰瘍です。
十二指腸は胃に比べて粘膜が薄いため、潰瘍が深くなったり、十二指腸に穴が開いたりする(=穿孔)可能性が高いという特徴があります。
十二指腸潰瘍の症状は腹痛がもっとも多く、特に夜間、早朝などの空腹時、右上腹部に痛みを生じますが、食事により症状が緩和するという特徴があります。背部痛(背中の痛み)を感じることもあります。また、十二指腸に狭窄や変形がおこると、食物が通過しにくくなり、嘔吐します。
20~40歳代の若い世代に発生しやすく、特にストレスが多い現代では、じわじわと増加傾向にあります。

消化性潰瘍は、潰瘍が深くなると潰瘍部分から出血し、嘔吐物や便に血液が混じります。嘔吐物に混じった場合、大量出血すると出血した血液をそのまま嘔吐(吐血)します。便に出るときや、嘔吐物に少量だけ混ざっている場合は、血液が黒色になります。
尚、潰瘍がだんだん深くなると、胃や十二指腸を突き破ってしまいます。これが「穿孔」と呼ばれる状態です。
胃が穿孔すると、非常に強い持続性の痛みが生じたり発熱が生じたりします。十二指腸が穿孔し消化液や食べ物などが腹膜に流出すると腹膜炎(穿孔性腹膜炎)を起こし、手術が必要になることもあります。

2.胃・十二指腸潰瘍が起こる原因

胃潰瘍の原因の70%、十二指腸潰瘍の原因の約95%が、ヘリコバクターピロリ菌(以下ピロリ菌)の感染によるものいわれています。
ピロリ菌は胃や小腸に炎症および潰瘍を起こす細菌 で、胃酸という強い塩酸の中でも生き続けられるという特徴があります。ヒトの胃に棲息している、直径0.5~1.0μm、長さ2.5~5.0μmと非常に小さな菌で、癌の発生にも深く関与していると考えられています。 一般的に衛生状態が悪い国での感染率は非常に高く、先進国での感染率は非常に低いものです。日本の場合、上下水道が十分に整っていなかった時代に幼少期であった50歳代以上の70%が、衛生環境の整った中で幼少期だった10歳代~20歳代の30%前後が、ピロリ菌に感染していると言われています。日本人全体では感染率50%前後、約6000万人がピロリ菌の感染者であり、先進国の中ではかなり感染率が高いといわれています 。
ピロリ菌の感染経路については不明な点もありますが、人から人へと感染していくため、幼少期の離乳食や食事の口移し、息を吹きかけて冷ますなどの行為によって感染する原因を作っていると考えられています。
ピロリ菌は成人への初感染はまれで、感染したとしても持続感染はしないことが多いとされ、ピロリ菌は小児期までに感染しそれが持続感染していると考えられています。

ピロリ菌除菌法はこちら

ピロリ菌以外で胃潰瘍の原因として確率が高いのが非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用です。これは、解熱、鎮痛、炎症を抑えるなどの目的で使われるお薬(解熱剤や痛み止め)です。この種類のお薬には、胃粘膜を保護する物質(プロスタグランジン)を抑える働きがあり、これにより胃粘膜を保護する力が弱くなり、胃潰瘍になると考えられています。
そのほかにも精神的な強いストレスや性格的な要因(几帳面、まじめなど)、飲酒や喫煙、不規則な生活も、胃潰瘍の原因となります。
ピロリ菌感染以外の十二指腸潰瘍の原因は、胃から分泌される胃酸の影響があります(胃に続く臓器のため)。ストレスや不規則な食事、喫煙、NSAIDsなどの影響により粘膜を守る働きが弱くなると、胃酸が十二指腸の粘膜を溶かし、防御力を低下させてしまいます。 前述したようにもともと十二指腸の粘膜は胃と比べて薄く、酸にも弱いため、胃酸の分泌が多くなると傷つきやすくなり、潰瘍ができてしまうのです。
十二指腸潰瘍と遺伝的な関係については、現在も研究が続けられています。

3.胃・十二指腸潰瘍の治療法

胃・十二指腸潰瘍の治療は、内服薬によるものが一般的です。胃酸の分泌を抑える「胃酸分泌抑制薬」と呼ばれるお薬による治療の効果が高いと考えられています。近年では「プロトンポンプ阻害薬」という種類の治療効果の高さが分かり、この種類の胃酸分泌抑制薬が治療の中心になりつつあります。
この他、患者さまの状態に合わせて、粘膜の防御因子を増強する制酸薬、胃の運動を活性化して胃酸や食事を長く胃に貯めないようにする薬などを使用することもあります。

消炎鎮痛剤(NSAIDs)を内服している方の場合、あらかじめ胃薬を一緒に内服することで、潰瘍の治療になることもあります。
ヘリコバクターピロリ菌が原因だった場合には、ピロリ菌の除菌を行います(2000年より保険適応となりました)。これは、3種類の内服薬を一定期間服用する治療ですが、この除菌治療により、潰瘍も改善してくるといわれています。
また、出血している潰瘍の場合、内視鏡的な治療を行います。これ出血部位の止血だけではなく、再出血の予防にもつながるため、緊急手術や死亡率減少効果が期待できる治療法です。特に活動性の出血例と、出血をしていなくても血管が露出している例に対して積極的に行います。内視鏡的な止血が終了したら、内服治療へと移行します。
他にも、すでに穿孔してしまっている場合や2回以上大出血した場合、薬物療法で効果が見られない場合、胃がんなどほかの疾患の可能性を否定できない場合には、手術の適応となることもあります。十二指腸潰瘍では、穿孔性腹膜炎を起こしているケースも手術の対象となります。なお、胃潰瘍に対して手術を行うことは非常にまれです。
このような治療に加え、暴飲暴食を避けるなど生活習慣の見直しも大切です。ストレスをためないように生活したり、禁煙や禁酒を心がけたりしていきましょう。医学の進歩により、胃・十二指腸潰瘍は完治させることができる疾患となっています。しかしながら、いったん治っても再発をしやすい病気でもあります。
また、場合によっては症状が消失してからも状態を安定させるためにしばらく内服治療を継続していただく場合もあります(維持療法)。治療中に症状が良くなったからといった理由で服薬を自己判断で止めてしまう方もありますが、再発防止なども踏まえて医師から処方された薬はしっかりと飲み切るようにしましょう。